
相続した土地が売却できない場合には、「相続土地国庫帰属制度」の利用を検討されてはいかがでしょうか。
山あいにある土地を相続しました。自ら利用することはないため売却を考えていますが、その周辺では空き家や買い手が見つからない土地が散見されます。私の代で何とか売却したいと考えていますが、売却できない場合は、子どもの代へ継承していくしかないのでしょうか。
売却できない場合には、「相続土地国庫帰属制度」の利用を検討されてはいかがでしょうか。制度の概要は、詳細解説にてご確認ください。
相続または遺贈によって、土地の所有権または共有持分を取得した者等は、その土地の所有権を国庫に帰属させることについて、法務大臣に対して承認を申請することができます。この場合、共有持分を取得した者は、共有者全員で申請する必要があります。手続の流れとポイントは、以下のとおりです。
すべての土地が帰属できるわけではありません。たとえば次のような土地は、申請をすることができません。
【申請をすることができない土地(例)】
- 建物がある土地
- 担保権や使用収益権が設定されている土地
- 墓地、境内地、現に通路であるなど、他人の利用が予定されている土地
- 土壌が汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
- (※)申請時に測量の実施や境界確認書の提出は不要(土地の範囲を示せば足りる)ですが、境界点を示す目印を設置する必要があります。既存の境界標や地物(ブロック塀や道路など)により境界点が明らかな場合は、新たに目印を設置する必要はありません。
そのため、申請をすることができるかどうか、事前に法務局に相談をするとよいでしょう。相談は予約制で、所在する土地を管轄する法務局(本局)で予約を取ります。
承認申請には審査手数料の納付が必要となります。作成した申請書に審査手数料分の収入印紙を貼り付けて、提出します。手数料納付後は、申請を取り下げた場合あるいは審査の結果が却下・不承認となった場合でも、手数料は返還されませんのでご注意ください。
申請書の提出先は、その土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局(本局)の不動産登記部門(登記部門)となります。ただし、法務局・地方法務局の支局・出張所では、承認申請の受付はできませんので、注意が必要です。
承認申請された土地について、法務局担当官が書面調査(却下事由の有無を調査)及び実地調査(不承認事由の有無を調査)を行います。
法務大臣は、承認申請された土地が以下の土地など法令に規定されたものに当たらないと判断したときは、土地の所有権の国庫への帰属について承認をします。承認・不承認の判断結果は、申請者に対して通知が送付されます。
【承認を受けることができない土地(例)】
- 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
- (※)崖の基準:勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル以上のもの。ただし、通常の管理に当たり過分な費用または労力を要しない場合には、国庫への帰属が承認されることもあります。
- 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
- 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
- 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
- その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
土地の所有権の国庫への帰属の承認を受けた方が、通知を受けてから30日以内に一定の負担金を国に納付します。納付した時点で、土地の所有権が国庫に帰属します。
負担金は、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した、10年分の土地管理費相当額とされています。具体的には、以下のとおりです。
土地の種類 | 地域・地区 | 負担金 | |
---|---|---|---|
宅地 | 都市計画法の市街化区域または用途地域が指定されている地域 | 面積に応じて算定 | 例 100u:約55万円 200u:約80万円 |
上記以外の地域 | 面積にかかわらず20万円 | ||
田・畑 | 都市計画法の市街化区域または用途地域が指定されている地域、農用地区域等 | 面積に応じて算定 | 例 500u:約72万円 1,000u:約110万円 |
上記以外の地域 | 面積にかかわらず20万円 | ||
森林 | 地域・地区不問 | 面積に応じて算定 | 例 1,500u:約27万円 3,000u:約30万円 |
その他(雑種地、原野等) | 地域・地区不問 | 面積にかかわらず20万円 |
本制度の運用開始日である2023年4月27日前に、相続等によって取得した土地についても本制度の対象となります。相続した土地について、売却活動をしても売却できない場合は、相続土地国庫帰属制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。なお、制度運用開始当初は、調査に時間を要することが予想されるため、しばらくの間は、承認申請受付後、国に帰属されるまでに半年から1年程度の時間を要する見込みのようです。
本制度を利用する場合は、法務省HPにある制度概要のパンフレットなどもご確認ください。
<参考>
法務省HP「相続土地国庫帰属制度の概要」
本情報の転載および著作権法に定められた条件以外の複製等を禁じます。